第1回 「ともに生きる」価値の継承について

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  ○第1回 「ともに生きる」価値の継承~職員として(終了)

 

 板福連職員研修第1回が8月21日(火)午後12時30分より淑徳短期大学において、塩野講師(板福連副理事長・淑徳短期大学教授)の指導のもとに行われました。ビデオ演習についてレポート提出を求められる等緊張する場面もありましたが、塩野講師自らコーヒ―をふるまわれる等アットホームな雰囲気の中で充実した研修でした。職員研修は4回シリーズ。研修内容を要約紹介します

1.先人の実践から学ぶ
  =講師の自己紹介を兼ねて

◇トゥギャザー・ウィズ・ヒム(長谷川良信1890~1966)

 一方的な援助でなく、対等な関係に立つ共済でなくてはならない。我々は救い合う必要があるという〈共生の理念〉のもとに大正8年マハヤナ学園、昭和24年大乗淑徳学園、同40年淑徳大を設立した社会事業家・教育家。
◇福祉の心=ボランタリズム(自発的責任感)(阿部志郎1926年~)
 最初に助け起こすという動機付けがあり、次に、ともに生きる実践があり(事業所で実践)、そして、ともに生きる価値を社会に拡げる運動(ふれあい祭など)の展開を説く。社会福祉事業実践者。 

2.糸賀一雄の実践と理念=ドキュメンタリービデオ演習
 国中が食うや食わずの窮状にあった1945年に近江学園を設立した糸賀一雄は(1914~1968年)、「障害者と健常者が区別なく暮らせる社会を」と訴え続け、成人のための施設、女性のための施設、重度障害児の施設と、社会からこぼれ落ちていた弱き者との暮らしを拡充していった。当時のフィルムには、寝食を共にし生き生きと暮らす障害児と職員たちの姿が記録されている。それはまさに「福祉」の原点である。糸賀の活動を支えた池田太郎、田村一二は、三人がたてた誓い「共に生きる社会」への萌芽をみることができる。番組では、三人の遺志を継ぐ三つの現場「近江学園」「信楽寮」「茗荷村」にカメラを据え、“三人の誓い”の今、そして明日を見つめる。そして講演中、「この子らを世の光に」と語った直後、心臓発作によって志半ばで逝く。
◇「この子らを世の光に」

「精神薄弱児の生まれてきた使命があるとすれば、それは『世の光』となることである。親も社会も気づかず、本人も気づいていないこの宝を、本人の中に発掘して、それをダイヤモンドのように磨きをかける役割が必要である。そのことの意義に気づいてきたら、親も救われる。社会も浄化される。本人も生き甲斐を感ずるようになる。」「・・・精神薄弱な人々が放つ光は、まだ世を照らしていない。・・・ しかし、人間の本当の平等と自由は、この光を光としてお互いに認め合うところにはじめて成り立つということにも、少しずつ気づきはじめてきた。

◇発達保障について

「人間の精神発達は、縦軸(IQ等)の発達が絶望的でも、横軸(感情)の発達は無限である。この横の広がりとは、かけがえのないその人の個性」である。
「この子らはどんな重い障害をもっていても、だれと取り替えることもできない個性的な自己実現をしているものである。その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちの願いは、重症な障害をもったこの子たちも立派な生産者であるということを、認め合える社会をつくろうということである。『この子らに世の光を』という哀れみの政策を求めているのではなく、この子らが自ら輝く素材そのものであるから、いよいよ磨きをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。この子らが生まれながらにしてもっている人格発達の権利を徹底的に保障せねばならぬということなのである」

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○第2回 「障がい者のニーズ把握」 (終了)

 

  第2回職員研修が10月2日(火)12:30から淑徳短期大学5号館において実施されました。講師は、前回と同じ塩野理事(淑徳短大教授)が担当。研修のテーマ「障害者のニーズ把握」について、びわこ学園の日常生活のビデオ「ありがとう この地」を使って行われました。ビデオを見るにあたって、「自己のニーズを伝えることができない知的障害者や子供のニーズを推測(想像)する枠組み」についての基礎理論を学び、発達保障の重要さを学びました。(以下要約)

1.マズローの欲求5段階説

 「人間の欲求は5段階のピラミッド構造をなす。底辺から始まって,1段階目①の欲求が満たされると,1段階上の欲求を志す」というものです。
 ①生理的欲求と②安全の欲求は,人間が生きる上での衣食住等の根源的な欲求,③所属と愛の欲求とは,他人と関りたい,他者と同じようにしたいなどの集団帰属の欲求で,④承認の欲求とは,自分が集団から価値ある存在と認められ,尊敬されることを求める認知欲求のこと,⑤そして,自己実現の欲求とは,自分の能力,可能性を発揮し,創造的活動や自己の成長を図りたいと思う欲求のことです。
2.ビューラ―の機能快(幸福感)

「機能が発揮できる事は人間にとって快感であり、成長の動議づけとなる」。
○身体的快感・・・五感(ほめると喜ぶ)
○知的快感・・・真剣なまなざし、輝き
○情緒的快感・・・喜怒哀楽(5歳位まで発揮)
○社会的快感・・・集う喜び(社会的動物)
3.ニーズ把握の枠組みと発達保障

 機能障害があるものは「輝き」はかなり制限されているが幸福感は充足されるニーズ把握の枠組を参考にして、自己のニーズを伝えることができない知的障害者のニーズ充足に照らして考えていく。 

 「人間の精神発達は縦軸(IQ等)の発達が絶望的でも、横軸(感情)の発達は無限である。この横の広がりは、かけがえのないその人の「個性」である。
 「人はどんなに重い障害をもっていても、だれととりかえることもできない個性的な自己実現をしている。人間と生まれて、その人なりの人間となっていく。その自己実現こそが創造であり、生産である」。その「人間の発達に取り組むなかで、発達的価値が創り出されていくことを人間の尊厳のあらわれとして認め、それが本人自身のものとなっていくことまでの取組みをへだてなくすべての人の場合に権利として保障していく」ことが必要。それは、人間らしく豊かに生きることを創り出していくことともいえます。

4.びわこ学園の誕生

 滋賀県のびわこ学園は重症心身障害児施設であり計2百名位の医療も要する方が入所している。ここは糸賀一雄氏が昭和 21年11月戦後の混乱期の中で池田、田村両氏の懇請を受け知的障害児等の入所・教育・医療を行う「近江学園」を創設し、園長となったことに発する。
 糸賀氏は、最初は、経験が浅かったこともあって、重症心身障害児を「生ける屍」のように思っていましたが、障害者と共に生活する実践の中で重度の障害児であっても人間としての生命の展開を支えることが重要であるとの理念を持ち、「この子らに世の光を」ではなく
「この子らを世の光に」と唱え、人間の新しい価値観の創造を目指した人権尊重の福祉の取り組みを展開しました。

5.びわこ学園の実践と基本構想

 「障害者のニーズ把握」について、「推測する枠組み」を基に、びわこ学園での障害者と職員の実践的な生活ビデを見ました。ビデオの節目で塩野講師の板書きとコメントを聞きながら、障害者の具体的なニーズ(聞こえない言葉を聞く)を把握し、それを充足するの具体的な援助内容(残余機能の発揮・ニーズの充足・生活の快の向上)について努力と工夫の実践的取り組みを学びました。
 びわこ学園は、二十数万人の理解と協力を得て一つのいのちになり、三つの基本構想(①障害をもつ人が家庭や地域でもふつうの生活ができるように②施設でも家庭に近い生活ができるように③障害者がいるのがふつうの社会となるように)のもとに、小舎制の全室南向きの生活の快適性のある新しい建物ができました。
 「ともに生きる」価値を社会に広げて「ともに生きる社会」の実現を目指すとともに、「日々ともに生きる」実践(事業所)を担っている職員の役割の大切さについて塩野講師は説かれました。